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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和36年(む)41号 判決

被疑者 浅田豊

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件につき昭和三十六年三月一日福岡地方裁判所飯塚支部裁判官松永剛がなした勾留期間延長請求却下の裁判に対し検察官石田唆二郎より適法な準抗告の申立があつたから当裁判所は次の通り決定する。

主文

被疑者に対し昭和三十六年三月一日裁判官松永剛がなした勾留期間延長請求却下の裁判はこれを取消す。

被疑者に対する勾留期間は昭和三十六年三月十一日までこれを延長する。

理由

第一、本件準抗告の理由

末尾添付の検察官の準抗告申立の理由書記載の通りであるからここに援用する。

第二、当裁判所の判断

よつて案ずるに本件各疏明資料によれば、本件は多数の人々の共謀による犯罪であり、しかも被疑者は犯意を否認しているのみならず、多数の共犯者に対し検察官の取調べが未了であり、且つ検察官の呼出に対し不出頭者数名ありて捜査に困難をきたしていること、などが認められる。以上の事実を綜合すると本件勾留期間延長の請求はこれを許可すべきが相当であると思われる。然るに原裁判はこれに反し右勾留期間延長の請求を却下したのは不相当である。従つてこれを取消し、右勾留期間を昭和三十六年三月十一日まで延長することとし検察官の本件勾留期間延長の請求を理由ありと認め、刑事訴訟法第四百三十二条第四百二十六条第二項の規定に則り主文の通り決定する。

(裁判官 桜木繁次 岩隈政照 岡崎永年)

準抗告申立理由

一、被疑者浅田豊は全日自労福岡県支部田川分会に所属する組合員で炭鉱離職者臨時措置法に基く緊急就労対策事業として合資会社新工組(代表者長尾軍治)が請負つた直方―夏吉線路床改良工事の現場に働く所謂緊就労務者で外数名の同組合員で且つ同一右現場に稼働する緊就労務者と共に右新工組に対し賃上げ交渉をし(1)昭和三六年二月九日から右新工組事務所に座り込みを実施し、同日午後一〇時三〇分頃被疑者吉田忠太郎、同井上キクエ、同宇野原博の四名と共に右長尾軍治方玄関先に押しかけ社長が不在である旨同人の妻長尾君子に告げられるや同人及び長女長尾豊子両名に対し約五分間に亘つて共同し多衆の威力をもつて交々玄関の戸を激しく叩き「社長出て来い」「貴様出て来い」等と大声で怒号し、同人等の身体に危害を加うべき気勢を示して脅迫し被疑者萩尾道雄、同一ノ谷武雄の両名と共に社長が交渉に応じないことに激昂し前同日午後一一時頃前記場所に押しかけ、約五分間に亘り共同して多衆の威力を示して玄関の戸を激しく叩き「こら出て来い」等と大声で怒号しながら、同人の身体に危害を加うべき気勢を示して脅迫し(3)被疑者吉田忠太郎、同一ノ谷武雄、同井上キクエ、同宇野原博、同木村政雄、同高下ツヤ子と共に前記新工組が座り込み参加者の不就労時間分の賃銀カツトを行つたことに激昂し共謀の上、多衆の威力を示して賃銀全額を支払わせることを企て、前記浅田豊、吉田忠太郎が指揮し同月十一日午後五時頃前記社長方玄関前に押しかけ、同人の妻長尾君子に対し「出て来い」「出て来んと蹴破るぞ」等と大声で怒号し、玄関の戸を激しく叩いて、多衆の威力を示して要求し、もしこれに応じなければ戸を蹴破つて屋内に侵入し如何なる危害をも加えまじき気勢を示して脅迫した被疑事実は一件記録により疎明充分である。

二、本件は前記の如く集団暴力事犯であり被疑者浅田豊はその主謀者であり全事実に関係しているがその犯行を否認することはもとより他の被疑者と計りその捜査に対し出頭拒否証言拒否の態度に出るのはもとより参考人に対しても団体の圧力をもつて威圧し具体的犯罪事実の究明に対し捜査の妨害をし罪証も隠滅する疑があることが認められ従つて当裁判所もこれを理由に同人を勾留したものと思料する。

三、そして被疑者浅田豊に対する右勾留理由は反面身柄不拘束中の被疑者吉田忠太郎、同木村政雄、同萩尾道雄について取調べのため出頭を求めても出頭せず取調べに応じないことからもこれを推認されるところである。

四、本件は被疑者一〇名に及ぶ多人数であることはもとより本件の特殊性及び事案の複雑性から当時の実情を詳細且又明確ならしめるために多数の参考人の取調べをなしその犯行を立証するに足る充分な資料を収集しなければならないのであるが被疑者吉田忠太郎、同木村政雄、同萩尾道雄等は疏明資料の如く出頭せず取調べに応じないためこれ等の者の逮捕の必要性も生じておりその外未取調べの被疑者、参考人も多数あつて勾留延長を認めるべき理由は明白である。

以上

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